hwb work diary 2004.3


3/29 もうすぐだ。
桜の花が咲いている。
たまたまお店の前の桜だけ、染井吉野らしい。そういえば、咲っぷりが違う気がする。
染井吉野という名前さえ良く理解していなかった僕は、先日のウェイティングバーアバンティーのラジオ放送で改めて意識する事となった。知ってるようで知らん事は多いなあ。
この場所に移転してから2度目の春。年中桜を観察できるのは贅沢である。
桜といえば、春がよいと思っていたが、以外と夏は夏で緑っぷりが良く、桜の木を見る限り春より活力を感じる。
散って始まるような。



3/26 01の椅子
01の椅子を見に来てくれたお客さんは、今度千種区にカフェをオープンするそうだ。
中国茶を楽しむカフェらしく、01の椅子がお店の雰囲気にちょうど良いと言ってくれた。
平日の平和な僕らのお店に、数回来てくれての注文だ。
01chairを5脚である。
それから、うちのお店で販売している「カイフランクのグラス、カルティオ」を気に入ってくれ、お茶セットに購入しようか悩んでいるのも、妙にうれしく感じた。カルティオはクリスタルガラスなんで、綺麗だ。
それと、先日出来上がったばかりのお盆を見て、正方形の物を作って欲しいと、、、。なんだか、ワクワクするね。

01の椅子は来週から、製作する予定があったので、同時に製作する。
ブラックウォールナット材で9脚での製作だっ。
 5脚はカフェへ。
 2脚はクルミ材のオーバルダイニングテーブルに合わせ、悩みに悩み抜いたお客さんへ。
 1脚は、01の椅子を気に入ってくれた家具職人のお客さんのもとへ。
←これがカバ材のお盆。スタッキングするための、形状は、お盆を持ち上げる時の指のかかりとなる。
画像上、雇いザネと木くぎが顔みたいで気に入っている。



3/25 おおきな仕事
打ち合わせを重ねてきた宇野さんの建築の仕事に取りかかっている。クルミ材で作る建具や、階段や柱などの木部の製作である。
かなりの数になるので、普段の家具製作以上に段取りに時間と労力を使う。
無駄に材料を捨てないようにも気をくばり、最善のシンプルなプロセスで事を進めるように心掛けている。
雨にあたり水が浸透する可能性もあるので、普段の家具には使用しないタイプの接着剤を使用する事にした。
建具も、階段も、全てクルミ材。
普段、無垢材を素材に家具製作をしている僕にしかできないと、強く感じた仕事内容である。

無垢材は角材にするまでに、多くの工程がある。
がんばるぞ。



3/24 テレビ台
もうすぐテレビ台と電話台が完成する。電話台は細かな収納ができる開き扉のタイプである。抽き出しと棚板で、収納したいものリストをクリアーしたフルオーダー家具である。便利だろう。
それからテレビ台。最近、テレビ台を製作する事が多い。
テレビ台の必要とされる本体の高さは、テレビのサイズによるので、お客さんの方から任意の高さを指事してもらう事が多い。
あまり、本体の高さが高くなるとテレビを見るのに見上げる事になってしまうので、首もつかれる。
収納の制限からくるバランスは微妙。
僕は思うが、テレビ台はついでにテレビを乗せているぐらいに感じる生々しくない物ができないかと。
僕の考えた家具は、収納や使いやすさなどを追求しできあがってくる部分と、それ以外の隠れた裏コンセプトがあり、むしろそれなしでは語れない。
オリジナルの家具で説明すれば、オープンシェルフはイサムノグチさんの照明ありきでデザインしてあり、言ってしまえばついでに収納もできる照明機具的存在だ。お店に展示してあるオープンシェルフには、イサムさんの照明がいつも灯っている。(だから、うちのお店でイサムノグチのアカリシリーズも扱っている。)
16チェストは大きな花台。650mmの高さなので、小さな観葉植物を置いてみると実に良い。自分で使っている16チェストに飾られた山野草は4年経過した。今日まで僕に、なんとも言えない大きな世界を感じさせつづけてくれている。
無垢材の質感はアカリシリーズの和紙を通した光りや、昼間の自然光に共鳴しあっているような気がしてならない。合う物は合う。
家具が好きな僕は、家具事体より家具のある生活が好きだとも言う。



3/21 納品
WOOD ARM SOFA といっしょに納品させてもらったダイニングセット。こちらもオリジナルのテーブルと椅子である。このレギュラータイプのテーブルなのでサイズLL(2000mm)、L(1800)mm、M(1400mm)として提案させてもらっている。理由は大きさ別の価格を明解にしたかったからだ。もちろん、ミリ単位で違ったサイズも作らせてもらっている。サイズ別の価格の目安である。

椅子は01。テーブルと同じイタヤカエデでの製作。

やっぱり、この椅子は好きだ。いろんな違った空間に納品する度にいつも思う事がある。「場に似合うなあ」と。
椅子の方から空間を選ぶ程の主張がないためか、さりげなくダイニングという場を作ってくれる。安心できる椅子だ。



3/21 納品
ソファとローテーブルの納品。
実は昨日も同じソファを納品させてもらっている。

このソファは今年の新作で、木のアームが特徴である。
シートの高さは低く、310mmとなっている。実際に座るとクッションが沈むため、さらに低くなる。

全体の大きさはアーム部も含め1600mmとなっている。
リビングにちょうどいい大きさだと、改めて実感した納品となった。
座り心地と木の質感、そしてサイズ内でのシートとフレームのバランスを検討し試作をした結果である。

オリジナルソファとして店に展示してあるので、お店に来る時には是非座ってもらいたい。



3/18 材料
オーダーメイド(注文家具)のハードメープルで作ったベビーチェスト(左)、と HWB オリジナルのイタヤカエデで作った01チェア(右)だ。
ハードメープルはアメリカ東海岸育ちのもの。イタヤカエデは日本は北海道育ちのものだ。
よく似ている木であるが、表情の違いは大きい。ハードメープルは比べれば白く、イタヤカエデは比べれば少し赤い。
ハードメープルは引出しのあるチェストに良く合う。イタヤはクセがあるので使い方を選ぶ。
家具が出来上がった時に、素材がそのデザインに合っているかどうかは、作った本人が1番感じれるのかもしれない。
逆に、作っている時に素材にあった表現方法を発見できる事は多く、僕らの作る家具はデザインありきだけではないね。

このベビーチェストは、引出しの深さの違いが5種類ある。上から段々深くなっている。上から3段め4段めは見た目は同じだが、内部の深さは違う。これは本体をより安定した構造にするために内部に少し工夫がしてあり、見た目は同じでも内部に違いが出る理由からである。別に、何も難しい事ではない。やるかやらないかの違いだけである。
深い引き出しは衣類を。浅い引き出しはシキリを入れるか迷ったが入れない判断をした。「子供が成長した時、自分で工夫する事もいいかな」と思えたからだ。
本体の大きさは幅800mm。900mm幅という家具は多いが、それは単純に材料の取り都合や家の比率からきているそのままのサイズである。なんとなく余裕がなく違和感を感じてからは、もう少し使い手に意味のあるサイズを考えようと心掛けるようになった。意味のある大きさでありたいからね。
高さは1000mm。脚部が脚としての存在を感じ、そして掃除機も入らなくてはストレスなので、結構シビアに考えている。
脚のない幅木タイプの収納家具も作る。どちらにしても設置場所や使い方しだいだと感じる。
1000mmの高さは、この家具にはちょうど良い使い勝手をさせてくれるヒューマンスケールからそれとなく考えた。
生まれてくる赤ちゃんは男の子だそうで、ハードメープルだと甘過ぎるかと思えた。が、ハードメープルの白さが無垢な赤ちゃんにすごく合っているように思えたのは、依頼主のお母さんと話していた時だった。子供の成長とともに、だんだんアメ色に変化していく様が楽しみである。これから蜜ロウワックスを施す。



3/16 木のこと
昨日の午前、ソファが欲しいと訪ねて来たお客さんから聞いた話である。そのお客さんは小さい頃、年に数回、家具や家の木を米ぬかやカキ渋で磨く習慣があったそうだ。おばあちゃんから自然に教わった習慣らしい。自然とできた結果的な艶は、表面に付けた艶と違い、それ事体が発する質感な訳なので、より透明感がありより自然である。おばあちゃんが亡くなった後、その習慣もなくなってしまったそうで、だんだん木は薄汚れてくすんでいったそうである。お客さんは目の前にある僕らの家具を見て、そんな事を思い出してくれ、そんな物語りをしてくれた。

昔の人は、「木の事をよく知っている」事に、驚かされる事が以前にもあった。親しみがあって心強い大切にしがいのある存在だったんだろう。
特に、ケヤキのように価値のある存在としてではなく、もっと生活に密着した存在としての木の会話を聞いた時は、うれしいというより、むしろ切なくなったのを思い出す。
腐りにくく硬く丈夫だから家の土台にはクリの木を(線路のマクラ木もクリの木だった)。軽く水に強いヒノキやヒバやマキの木はお風呂や桶に。囲炉裏のそばには熱に強いサクラの木を。衣類を守るタンスの引出しには桐や滑りの良いカツラを。滑らかで強く繊細なツゲの木は髪を磨ぐくしに。柔らかくちょうど良い上品なまな板はヤナギの木で。風格のある木目のケヤキは床の間やハレの日の物に多く使用され、道具として耐久性を求められる物にはナラやカシなどを代表とする堅木で作りたくなるのは良く理解できる。

様々な時代背景があり、結果、僕にはすごく身近な存在となった木を通して感じる多くの事は、すごく無理がなく自然な理屈で僕を混乱から救ってくれるので、これからもより親しく永く付き合っていきたいと思う。
本当に、ありがたい。



3/14 テレビ台と電話台
オーダーメイドの家具を作っている。「電話台を作って欲しい」と、収納したい物リストを見ながら相談を受けたのはお店のオープンの日であった。だいたいのイメージを聞いて、デザインを提案させてもらった。その後、「テレビ台も作って欲しい」と、相談を受け、御自宅へ採寸へ出かけ、打ち合わせをさせてもらった。その後、お客さんにお店の方来てもらい、材料の確認や細かなデザインの打ち合わせをし、最終的に注文を頂いたものだ。
ナラ材で作っているテレビ台と電話台は、まったくもってその家に合うサイズであり、家具である。
僕らはオーダー家具の仕事も多くさせてもらっている。「こんな家具があったらいいのに」と思う気持ちに応えれる家具屋である事が僕の自慢である。簡単に産み出す事ができないからこそ「まかせて下さい」と言いたくなる。もちろんその都度、アイデアを出す苦悩の時間があるが、納品する時は実に晴れ晴れしく気持ちが良い。「使ったって下さい」と家具を納品する。
打ち合わせががあり、苦悩があり、もくもくと製作をし、晴々と納品する。それを何度も何度もくり返し、気が付いたら作ったオーダー家具は何百種類の違った経験となっている。
何度くり返しても新鮮な気持ちでいれるのは、その家具を使う人がいて、違う空間があり、それぞれの違った生活があるからであろう。作った家具で何が良い悪いはない。どれも真剣に考え提案し作ったものだし、使う人も違うから比べようがない。
家具は生活のための道具にすぎない。だが、その生活に僕は楽しく気持ちよく生きる事の可能性を感じている。道具なので、使って行けば、必ずそれなりの使い方の違うによる個性が出てくる。だから、木の家具は無垢材で作りたい。油やロウで磨き、使い込んだ木が光沢を出していくその様は、深く一言では言えない程のいろんな意味を持った時間の蓄積であろう。
家具の楽しい使い方の一つとして、参考迄に僕の家具のメンテナンス方法を書こうと思う。思ったより気軽で自然で楽しい事である。
大事にしていきたい事なので、また今度じっくり時間をかけて書こうと思う。
ナラ材で作っている電話台とテレビ台。作りながら、そのお客さんの事が思い浮かぶ。こんな木柄がいいんじゃないかと。



3/13 打ち合わせ
相談をうけているキッチンがある。それは家具のようなキッチンにしたいという事。ワークトップをステンレスではなく、木であるという事。そして脚の付いたデザインである事。それらを希望の価格に合わせながら考えて来た。キッチンを作る場合、普段の家具と違う点がある。それは、レンジやガス、IHヒーター、混合栓などの設備がからんでくるという事だ。今迄キッチンを作らせてもらっていく中で、順番に設備も直接うちで購入できるようにしてきた。ただ、海外のもの例えばミーレやガゲナウなどの物は日本に在庫がない場合もあるので、そろうのに時間がかかる場合もある。実際の取付け工事の事もあるので、家具の中では、特に前もって打ち合わせが必要となってくる部類に入る。
そして、今日はその木天板のキッチンの打ち合わせがあった。

お客さんの要望に答えていく事は自分の経験になっていくので、実にありがたく、そしておもしろい事である。
実際、自分がおもしろく感じるまではかなりの苦闘がある。いいアイデア、方法に辿り着く迄は実に苦悩の日々である。
考えても、考えても術はない。工房での作業がヒントになったり、今迄の経験のアレンジがきっかけになったり、ステンレス板金屋職人との何気ない会話を思い出したり、いろいろな要素が必要である。すごく感覚的に考えながらも、ミリ単位の世界でせめぎあいようやく光が見えてくる。僕は木を愛している職人なので、木を最大限活かし、木の素質を考え無理がない構造でないと納得できない。木に逆らってはロクな事にならない事も知っている。表面の美しさは内部構造である骨格の意味と質と柔軟性がないと軽薄に感じる。
出来上がってみれば簡単に見える物でも、実は見えない部分での工夫なしではできあがらない物は多く、だからこそ毎回真剣であって、励むべき苦悩はかかせない。

実際製作はまだ先であるが、楽しみだ。



3/12 オリジナル家具
レギュラータイプのソファである。以前はカクソファといって作っていたものだ。決まった名前を付けるのがすごく苦手は僕は、そこはあまり深く追求しない方が楽でいられる。定番のものでも、微妙に進化しつづけているので、だから決まった名前が照れくさく感じる。
そもそもオリジナルという言い方も照れくさい。家具製作の日々で、自分自身が「これはいいなあ」と思えたも物は、結果作る機会にも恵まれる事も多く、微妙に進化させれるのでありがたい。定番のものだからといって、それ以上の可能性を求めるのを止めてしまうと単純に、つまらない物作りになってしまう。それは本当につまらない事である。
ソファもチェストもテーブルも作れば作る程、小さな発見がある。人には説明できないぐらい細かな細かな部分なので、具体的に伝えるには、いっしょに家具製作する以外に伝える術はないと思う。
画像はレギュラータイプソファに「こことここをこうして欲しい」とセミオーダー頂いたものである。座面に、2ピースのクッションをはめ込んだ。クッションの弾力と、本体の内部構造の弾力が合わさって、座った時の感触になる。今回は「硬めだけどやわらかい?(もう意味がわからない)」感触の構造である。
 以前こんな事があった。01のチェアを製作し、張り地のファブリックをいつものようにお客さんに好きなものを選んでもらった。
納品後、しばらくしてからお店に来てくれ、展示してある茶色の椅子を見て「うちのほうがいい〜」とお客さん。
ちっっっきしょう、、、。悔しいやら嬉しいやら。それだけ愛着を持ってもらえたとするなら、爽やかな完敗ではないか。
 そして、今回のソファ。う〜ん。微妙に良くなった。上品になったんだな、細かな感触が。
新たな変化を見たこのソファ。でも、目指すべくこのソファのコンセプトは変わっていない。
REGULAR TYPE SOFA。いろんな表情を見る事ができる幅の広い可能性を持つ本体のフレームは、基本的に変わっていない。



3/8 月曜日休み
土曜日、日曜日はお店に来てくれる人が平日より多く楽しい。平日は、多くても3組みぐらいの来客なので、のんびりとやっている。
オープン前からこのホームページを見てくれていた人が来てくれる事が多いので、親しみを持ってくれるので本当にありがたい。
昨日は、01の椅子を1脚買いに来てくれた人がいた。彼も家具職人らしく、光栄である。自分で作ったテーブルに合わせるそうだ。なんだか、椅子1脚という事が妙にうれしい。
それから、2週間程前に来てくれた若夫婦が、ダイニングと椅子、それからカップボードのオーダーメイドの相談に来てくれた。
自宅を撮影した映像を見せてくれた。どの木が合うか話をした。ダイニングには明るい色目の物がお薦め。御自宅のダイニング空間に合うかどうか検討してもらうために、大きめの材料サンプルを持ち帰ってもらった。そして、今日連絡を頂いた。イタヤカエデである。うんうん。

お店のあり方はいろんなスタイルがあるだろうが、無理をせず、僕ららしいお店になっていけばうれしいし、そうでありたいと思う。
僕らはお店というものに関しては初心者なので、そこは過ごしていく中で勉強し、いいお店にしていく努力はする。
成長していく過程は大切だし、そこに自分達が楽しみを覚え、義務感なく取り組んでいく事こそが自分らしい明日を迎えれるような気がする。だから、仕事だからとわりきって線引きしたくない。いろんな人と話す事や、いろんな物を見、感じる事は僕には欠かせない行動で、それらが最終的に家具作りに結びついていたとして、そこには線引きはなく繋がっている。全てがそうであるので、どこからどこまでが仕事かなんて単純なくくりではない。
「本当にいいなあ」と思える物を作りつづけ、追い求める冒険者でありたい。それをしたいがために、職人でいるんであろう。



3/6 焼印
焼印を。完成した01chairのフレーム。今回の01はイタヤカエデ。予定より1週間遅れて完成した。といっても先週は仕事が手に付かない状態だったので、製作時間はそんなに余計にかかっている訳ではない。集中して一気に製作出来なかった事は、僕の職人としてのプライドがあるので、くやしい。家具作りも、非常に多くの工程がある。
全ての流れを頭の中で想像し、それを具体的にリズムにのせて加工をしていく。その時、それ以上に自分の体が無意識に動くかどうかはそれ以前の意識の高さによる。自分には負けたくない。
工房は忙しく、機械は動き続ける。それでも、機械の騒音さえも静かに感じる程集中するのだ。一人静かに意識し、無意識な動きがでるまでモチベーションを高めるのだ。
これは僕の物作りのスタイル。だから、僕自身の問題である。どんな状態でも集中する静かな職人に絶対なってやる。



3/3 仕事
先週から今週にかけ、集中して仕事をする時間が持てなかった。理由は、僕の身近な人の出来事の影響である。僕がどうこうという事ではなく、ただ、その人の事が気になって本人に会わずにはいられなかったのだ。
僕にいろんな事を教えてくれたその人は、これから生きるべき道を大きく変えようとしている。その人と知り合っていなかったら、僕は木工とも出会っていなかったかもしれない。その人が10年程前に言った言葉がある。「命を削って真剣に木を削っている」と。その言葉は僕に響き、忘れる事ができない。木端一つに命を与える。表現は違うが、僕も少し理解できる。いや、僕は知っている。僕はその人に言った事がある、「作家ではなくて、職人でいる事に意義を感じています」と。今迄やさしく厳しく応援してくれていた彼に、会いに行って良かった。
どうであれ、その人らしく思うままに生きていってもらいたいと強く思う。

また、違う人の話である。依頼があって製作し納品をした椅子がある。その椅子は今なぜかその依頼主の手にはなく、しかもオープンするはずだったその人の新しいお店はオープンする事はなさそうである。
ものすごく、切ない話である。僕には理解できない事である。もし、がんばろうとしている人の邪魔をする人がいたとするなら僕は許せない。そうでない事を願い、信じたい。
その人のために作った椅子なので、その人に届けてあげたい。ただ、それだけの事。僕にはその図式しかない。

そんなこんなで、なんだか今家具を作ってはいけない気になっていたら、1本の電話が入った。
去年から依頼してくれている革張りのソファのお客さんであった。
「ネルソンのキューブソファが大好きなんです。」とそんな会話で知り合ったような覚えがある。
僕も当時、そのソファを見た時の印象と衝撃はかつてない程大きく、多大な影響をじんわりと与え続けてくれている素敵な物の一つなので、そんな会話が出来た事がうれしかったのだ。
そのお客さんからの電話だった。次回の打ち合わせ日程の確認であった。会うだびに、少しずつ知る事が増えていく。
ヌメ革を希望する理由が実は家族に対しての思いやりにあったりと、いろいろ僕に「ハリキル」要素を与えてくれるので、話していて楽しい。
どんな状況でも、動じない職人にはまだ遠いが、そんな「ハリキル」要素で活力がメキメキ出てくる自分も好きである。
よし、明日もがんばるぞ。



3/1 納品
3月だ。もうすぐ春か。

座卓を納品に行く前に店内で撮影。
「掘りごたつの部分にちょうどはまる座卓が欲しい」と、オーダーを頂いたものである。
クルミ材の家具は、だんだん色が深くなっていくので、完成した時よりも、実際の生活に馴染んだ頃の方が木の質感が出てくる。だから、なんだか新品の時は少し照れくさい。
納品に行き、お客さん新品の家に新品の座卓を設置し、思った。「新しい生活がいよいよ始るんだなあ」と。
上手く言えないが、そういう場面で僕はものすごく心があったかくなり、幸になれる。
最近思うのだが、お客さんに憧れている瞬間なのか。


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